拝啓〇〇様

ほかの誰でもない、誰かに向けて

システム

 

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「いいから、明日までにやってきて!」

 

山中先生の声が二人しかいない教室に響き渡る。

 

もう19時を回る頃で、ほとんどの生徒は下校してしまっている。校舎に残っているのは、自習しているわずかばかりの真面目な生徒だけなはずだ。

 

彼女はもうほうれい線がくっきりする年齢なのに、ショッキングピンクのカーディガンを羽織っている。

 

いつか、女性の品格について彼女と議論しなければいけない。

 

「いやだから、無理ですって。てかそもそも今、テスト期間で部活やっちゃダメじゃないですか。」

 

僕の高校は進学校だったから、テスト前は必ず勉強をするように小うるさく指導されている。

 

それに、明日までにコンスト一本を書き上げるのは物理的に不可能だ。

 

この前だって、そういう風にやろうとして部員が二人死んだばかりではないか。何も反省しちゃいない。

 

もう日も暮れる。今日はプールで脚も疲れているから、早く帰りたかった。

 

「いいから、やってきて!」

 

こうなった時の山中先生は、僕ら以上に子供じみて強情だった。

 

その態度は彼女なりの熱意の裏返しと頭ではわかっているが、僕の話に全く耳を貸さないもんだから、その日ばかりはついにこらえきれなかった。

 

「ふざけないでください!!」

 

僕は力ずく強引に彼女の胸ぐらを掴むと、壁に追いやり、彼女のうなじについている蓋を開けた。

 

ぱかっ。少しツメが甘くなっていたのか、すんなりと開いてしまった。

 

彼女は旧式のやつだから、内ももではなくうなじにコンストが入っているのだ。

 

「全く...」

 

おもむろにカバンから先日仕上げたばかりのコンストを一本取り出し、強引に交換する。

 

その間、彼女は白目を向いていた。旧式はこのバグが修正されていなかったんだな。

 

新しいコンストを入れた彼女は、黒目を取り戻して、ぽそりと「Bonjouer」といった。

 

ブッツケ本番だったから不安だったけど、どうやら、コンストが適合したみたいだ。

 

このコンストは部員全員で作ったやつだったから、うまくいってよかった。

 

そんなわけで、僕は帰路につくことができた。

 

定期券を探してバックをまさぐると、無くしたと思っていた指輪が出てきた。

 

「あ、ここにあったのか。」

 

あーだから怒ってたんだな、山中先生。

 

僕はその指輪を、右手の薬指につけた。そうするものだから。

 

あと、内ももがちょっと、痒くなった。